301 : 番外② タイムマシンの可能性

えーっと、むちゃくちゃご無沙汰です。三茶ロボットです。
先日、「ニュートリノが光の速さを超えた!」という、物理会における重大発表がありましたね。
ニュートリノといえば、ノーベル賞を受賞した小柴昌俊先生を皆さんもご存じなのでは?

小柴先生に栄光をもたらしたのは、カミオカンデという超巨大な実験施設です。
詳細は割愛しますが、カミオカンデはそもそもニュートリノ検出ではなく
陽子崩壊という現象を実験的に観測するための施設です。
当時、16万光年離れた星雲で超新星爆発が起こり、
その際吐き出されたニュートリノを偶然にもカミオカンデがキャッチしたのです。
小柴先生はその数週間後に退官を予定していたので、これは非常にラッキーな出来事でした。
ここで興味深いのは、人間の寿命が長くても100年ほどという単位に対し、
この超新星は16万光年、つまり16万年前に爆発し、
長い旅路を経て小柴先生の引退直前にカミオカンデに到着してくれたのです。
なんていうんですかね、小柴先生という人間が生まれる16万年も前から
幸運の女神は彼に微笑みかけていた、なんて捉え方も面白いかもですね。

と、今日はこの話をするんじゃなかった。
そう、ニュートリノが光の速さを超えた事実はタイムマシンの実現につながる、
というニュースが流れていたと思います。
なんで?という方も多いと思いますので、今回はこの理屈をざっくばらんに話します。
話が量子論ではなく相対性理論にシフトしますが
番外ということでお許しください。量子論もちゃんと続けますので。

さて、まずニュートリノとは物質を構成する素粒子の一つです。
電子や原子核、陽子などよりもっともっと小さい粒子です。
質量が極めて小さく検出が難しいとされ、特に星が爆発するような、
エネルギーが大きく動く場面で大量に放出されます。
今回、ニュートリノの速度観測を目的とする共同研究グループで、
スイスから発射したニュートリノをイタリアで検出する、という実験を行っていました。
結果ニュートリノは光よりも60ナノ秒(60x10のマイナス9乗秒)はやくイタリアに到達してしまったのです。
アインシュタインの特殊相対論より、いかなる粒子も光の速度を超えることは出来ないという
不動の真理が存在したのですが、今回の実験結果はこれを覆してしまったのです。

この現象がなぜタイムマシンに繋がるのかをお話します。
まず下準備として、特殊相対論の支柱となる「光速度不変の原理」についてご説明いたしましょう。
AさんBさんCさんがいるとします。
Aさんは時速50kmで移動、Bさんは時速20kmでAさんを追いかけ、
Cさんは動かずにAさんBさんを見ています。

CさんからみたAさんは時速50km、Bさんは時速20kmで移動しているように見えますが
BさんからはAさんは時速30kmで遠ざかるように見えます。当たり前ですね、相対速度というやつです。

では、次にAさんが光だったとします。Aさんは光速、すなわち秒速30万kmで動きます。
Bさんは全力を尽くし秒速10万kmでAさん(光)追いかけます。
常識で考えれば、BさんからAさんは30-10、つまり秒速20万kmで遠ざかるように見えるはずなのですが
ここで光速度不変の原理が働きます。

「光の速度は、どの観測者から見ても秒速30万kmである」

この理屈に従うと、Bさんがいくらがんばって追いかけても、Aさん(光)は秒速30万kmで逃げていきます。
さて、この様子、Cさんからはどのように見えるのでしょうか?
CさんからもAさん(光)はこの原理に従って秒速30万kmで動きます。
しかし秒速10万kmで動いているBさんからもAさんは30万kmで動いています。
何か矛盾が出てきましたね。
ここで当時のアインシュタインは強引につじつまを合わせるべく方程式を書き換えました。

 速さ = 距離 ÷ 時間

で表されますが、観測者の運動に限らず光の速度を保つためBさんのように運動している存在に対しては
時間を遅らせ、かつ距離を短くしてしまったのです。これは、要約すると以下のようなことになります。

■動く物体は時間の流れが遅くなる
■動く物体の周りは空間が縮んでいく

つまりCさんから見たBさんは時間の流れが遅く、ゆっくりと動いていることになるのです。
この現象、物理会では世界的な用語で「浦島効果 (Urashima Effect)」と呼ばれています。
おとぎ話に登場する浦島太郎が乗っているカメ。
このカメは光の速度にせまるスピードで海中を何年にもわたり泳いだため、
地上よりもずっと時間の流れが遅くなり
地上に帰還した頃には浦島太郎以外の人間が皆ヨボヨボのじーさまになっていた、という理屈です。
猿の惑星にもこんなシーンがありましたよね確か。

察しの良い方は気づいたかもしれませんが、早く動けば動くほど時間の流れが遅くなり、
光の速度で運動すれば、その存在の時間は完全にストップしてしまうのです。
では光の速度を超えるとどうなるか?単純にこの理屈で考えれば時間が逆転し始めます。
これがタイムマシンの理屈です。光の速度をはるかに超える乗り物がもし出来た場合、
それに乗れば時間は逆転し大昔の世界に戻れる、ということになるのです。
ニュートリノの話に戻りますが、これまで光の速度を超える存在は観測されてませんでした。
ボクは学生時代、SPring8という兵庫にある大きな粒子加速器施設で研究していたのですが、
ここの電子も磁場をかけまくっても光の速度の99%以上は加速出来なかった模様です。
まだまだ課題は山積みなのでしょうけど、この研究はぜひとも加速してほしいものです。

さて、冷静に考えればいろいろとツッコミ所のある理屈ですが、
時間と空間が運動する対象ごとに一定でない、という理屈は事実です。
様々な実験で証明されていますし、日常の中にも実例はありそうです。
例えば標高の高いところで生活する人は、地球の自転に伴う一周の移動距離が地表より大きくなるので
老化が若干遅くなるなんて話もあるみたいです。
マクロな視点で常識を生きている我々からはイマイチ理解しにくい部分ではありますが、
今や常識となっているこれまでの技術革新も最初は「えぇ~、うっそぉ~ん」
って感じだったと思います。
なのでこれからも人間の知性と可能性を信じ、技術の恩恵を真剣に受け止め、
私たち自身もInspire the next的なノリで気合い入れて生きていきましょう。
では。

三茶ロボット from Sangendyaya

-PS-
今日は挿絵はナシです。想像力を働かせてくださいまし。

コメントを残す